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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

タイの田園風景

               ≪八月三十一日≫      -壱-



    俺 「どうしようかなー!行っても、疲れるだけだしな

          ー!」

  
    若狭「良いじゃない、行こうよ!俺一人嫌だから、一緒に

           行こうよ、ね!行こう~~~~!」


 今日の行動が、若狭君のこの押しによって決まった。



  そしてこの日、フロントからのモーニング・コールで、朝七時

に起こされると言う、今までにない事態から始まった。


 昨日の夜、朝七時に起こしてくれるように頼んでおいたので、当然と

言えば当然なのだが・・・・、ベルがけたたましく鳴った時には、ものすご

い後悔の念が頭を過ぎった。



    俺 「ワッ!なんだなんだ、このベルは?まだ外は明けて

          ないじゃないか!」

  
    若狭「毛布を頭から被ってるんですよ!もう明るいです

          よ。さあさ!行きますよ!」


 若狭君の嬉しそうな声が、頭の上から聞こえてきた。

  
    俺 「行くって、何処へ?」

  
    若狭「しらばっくれて!パタヤ・ビーチですよ。行くって

          言ったじゃないですか!早く起きて下さいよ。」

  
    俺 「本当なの?」

  
    若狭「当たり前じゃないですか。嘘つくんですか!」

  
    俺 「夢じゃなかったの?」

  
    若狭「なんで、夢ですか!早く~~早く!」

  
    俺 「わかったよ・・・・・。」



  気持ちよく眠っている別の仲間達を残して(道ずれにしたい気

持ちをグッとこらえて)、ロビーに下りモーニング・コーヒーを二杯腹の中

に収めると、7:45小さな車がお迎えにやって来た。


 車に乗り込むと、若狭と俺以外にたった一人、毛唐の若い男がすでに

座っている。


    俺 「オイオイ!三人だけかよ!」


    若狭「大丈夫。オフィスへ行けばもっと増えるでしょ。」


    俺 「そうなの。」



  マイクロバスが朝の出勤ラッシュの中を縫う様にして走る。


 アート・コーヒーの前を通り抜けると、それらしい建物が見え、そこ

で下ろされる。


 なかなか立派なオフィスだ。


 オフィスの中でチケットを確認。


 周りを見渡すが、いっこうに客が増える様子もなし。


 ”今に、大きなバスが横付けされて、満員のシートに身を沈めるのだ

ろう。”


 そんなことを思いながら、オフィスのイスに腰を降ろし若狭の顔を見

る。



    若狭「ネー!バスがきた見たいですよ。」


 若狭の声に入り口の方を見ると、一台の大きなバスがオフィスに横付

けされている。

  
    俺 「だって、誰も乗っていないじゃん!」

  
    若狭「これから、いろんなホテルを回って、客を拾って行

          くんじゃないかな。」

  
    俺 「だったら、俺達だってホテルで待ってりゃ・・・良

          かったんじゃないの?」

  
    若狭「・・・・・。」


 
   オフィスの女性事務員「早く乗ってください!」



  バスに乗り込むが、三人だけ。


 バスはかまわず、8:00定刻にオフィス前を出発した。

  
    俺 「オイオイ!これじゃ、大きなバス貸切じゃない  

          か。」

  
    若狭「季節外れなんかなー!」

  
    俺 「これでバスを走らせるんじゃ・・・赤字になっちゃ

          うぜ!」



                   *



  十五分ほどでバンコック市内を走り抜けると、そこは田舎の風

景が何処までも続いている。


 飛行機の中から見た、あの田園風景そのままの中を、二車線の狭い国

道が走って行く。


 道路の拡張工事が行なわれているのか、国道からかなり離れた所に新

しい電柱が建ち並んでいるのが見える。


 家の立ち退きも、土地の買収も何も必要なしと言った感じで道路が広

げられていく。



  人家らしき物はこんもりとした木々の中に隠れるようにして見

え、日本企業の大きな看板だけが奇妙に目に入ってくる。


 小さな村に近づくと、田圃の中を人を背に乗せた牛が、ゆっくりと歩

き回っている風景にぶち当たる。


 裸牛の背に地元の人は、器用に座ったり横になったりして、気持ち良

さそうに揺られている。



  道路標識には、大きく牛の絵が書かれている。


 牛が歩いている事があるので、注意せよという事らしい。


 雨季の後らしく、水をいっぱい蓄えた水路が田園の中を走っている。


 ところどころ、木の繁った広い田園風景が見える。


 そんな中を、バスは二時間半ほど走った。



  途中小さな町に入った。


 ここでは、バンコックと違って、自転車を使ったタクシーがやけに多

い。


 狭い町では、バタバタは必要ないらしい。


 腰を浮かし、ゆっくりと自転車をこぎ、右へ左へ走って行く。


 円錐形の帽子を目深に被り、半ズボンをはいた足は、筋肉質でいかに

も足を商売にしていると言った感じに見れた。


 人力車の次に早いタクシーなのだろう。



  ひょっとして、こんな生活が日本にも昔あったよう

な・・・・?!


 そんなみすぼらしい生活の中に、寺社建築だけはやたらと立派に見え

る。


 彼らの生活の中に、大きな役割を果たしているに違いない。



                  *



     ”皆がそれぞれの仕方で生きがいを感ずるという事を、

         宗教はいちがいに否定してはいないでしょうが。中心的

         な考えかたは何かと言うと、どんな宗教でも教祖と言わ

         れる人の教えと言うものがあって、その教えを信じ、そ

         れに従わなければいけない。それを絶対の真理として信

         じなければいかんという点は、どの宗教でも同じです。

         そういう宗教が現にいろいろあるわけですね。未来永劫

         なくならないのかどうか、私にはよくわかりません。た

         だ私は、宗教の話はしない。”



                      ―湯川 秀樹―



                  *



  日本ほどいろんな宗教を受け入れている国は珍しく、日本ほど

宗教に無頓着な国はないといえる。


 それが今の日本を形成しているのかも知れない。


 宗教とは通過ではなく、到達点・終着駅だと言われている。


 そんな物にすがったところで、何の進歩もありはしないのではなかろ

うか。


 信じられるものは自分だけという事を、宗教のために後進国といわれ

ている国の人々は考えるべきではないか。


 先進国が良いと思っている人にとっては。


 (今は、のんびりした昔が理想と思っている。)




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